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Text File  |  2000-05-09  |  6KB  |  235 lines

  1.  
  2.  
  3.  
  4.  
  5.         「何処野 誰夫 博士の超次元アドベンチャー」
  6.  
  7.                第5話「記憶喪失」その2
  8.  
  9.  
  10.  
  11.                         P.N. ズオウ・リアキ
  12.  
  13.  
  14.     *    *    *    *    *    *    *    *    *    
  15.  
  16.      樫の木で造られた豪華な机に向かう男は、口からハマキの煙をゆっくりと吐
  17.  
  18.     き出した。だがその煙と思えたものは、空中に放出されるとまるでクモの糸の
  19.  
  20.     ようにほそい筋となり、見えない空気の流れになびいて、お互い求め合うよう
  21.  
  22.     にからんで、やがてとけるように姿を消した。どうもこれはハマキではないら
  23.  
  24.     しい。よく見てみると男が口にくわえているものは、茶色い葉に巻いた乾燥イ
  25.  
  26.     イモムシハマキ「スペースリャブコ」だ!
  27.  
  28.      世界広しといえど、こんなハマキを吸うヤツなど彼以外にはいない(正確に
  29.  
  30.     は、考案者とこの人)。そう、この男こそ、MIR隊員からは「ダビラー」と
  31.  
  32.     恐れられ、孫に似顔絵を書いてもらったらハマキの部分を本当にイモムシにさ
  33.  
  34.     れてしまった悲劇の男、ダビット・ラーキンズ長官その人である。肩書きはM
  35.  
  36.     IRの最高責任者となっているが、それも疑わしいものだった。定例の集会で
  37.  
  38.     は、演説しているダビラーを客席からもう1人のダビラーが見ていたとか、幹
  39.  
  40.     部会議では説明の最中にいきなり2人に分裂し、お互いにお互いの姿を認める
  41.  
  42.     と「こんなところに鏡があるよん」と同じポーズを取ったとか、そんなたぐい
  43.  
  44.     の怪しい噂は絶えたことがない。謎多き男なのだ。
  45.  
  46.      だが、それでもMIR隊員の募集規定に「制服貸与3食昼寝付おやつに赤福
  47.  
  48.     支給高給優遇(公証)」と書き込んで職業安定所に提出したのは彼であるし、
  49.                                                     カジノ
  50.     週末になれば新人隊員をともない、ゲスベガスの梶野で赤福フィーバーをやら
  51.  
  52.     かしたりするので、組織内ではけっこうな人望があった。
  53.  
  54.      そんな彼の不思議な魅力に惹かれて入隊してきた者も少なくない。長官室の
  55.                                                     ハリケン  ミ キ サ
  56.     のドアを遠慮がちにノックしたテキスサの牛娘、針権 美樹裟もそんな隊員の
  57.  
  58.     1人だった。彼女はダビラーの秘書官である。
  59.  
  60.     「入りたまへ」
  61.  
  62.     ハマキをHi皿にもみ消した。そして山椒の葉を上に乗せる。ドアが開いた。
  63.  
  64.     「失礼します」
  65.  
  66.     時代遅れのアフロヘアーと100メガスタイン級の胸を揺らしながら、颯爽と
  67.  
  68.     彼女は近づいてきた。どうしてこの女のヒールの音は、いつ聞いても蹄のよう
  69.  
  70.     に聞こえるのだろう・・・そんな考えにとらわれていると、すでに彼女は机の
  71.  
  72.     向かい側に立っていた。
  73.  
  74.     「ダビッド長官、誰夫・何処野の監視に付かせていた諜報員から通信が入って
  75.  
  76.     おります。どうぞ」
  77.  
  78.     超魔空間通信パッドが差し出された。
  79.  
  80.     ダビラーは眉間にシワをよせながら、多少イラついた声で
  81.  
  82.     「誰夫・何処野ではない。ドゥコーノ=ダレイオウだ」
  83.  
  84.     と言い、それでも差し出された通信パッドを美樹裟の手から荒々しく奪い取る
  85.  
  86.     ようなことはせず、静かに受け取った。
  87.  
  88.     視線を自分の足元に落とした彼女は顔を伏せ、
  89.  
  90.     「申し訳ありません」
  91.  
  92.     と深く礼をするとカカッ!とヒールを2回鳴らして、入ってきたときと同じよ
  93.  
  94.     うに颯爽と歩いて出ていった。そのタイトスカートから2本の尻尾が一瞬だけ
  95.  
  96.     見えたのを、ダビラーは見逃さなかった。詮索はよそう。彼女の体に必要以上
  97.  
  98.     の興味を示してキリモミ回転したことは、1度や2度ではないからだ。
  99.  
  100.      ダビラーは右足の靴と靴下を脱ぐと、机の上に置いてある新品のお手拭きで
  101.  
  102.     念入りに足をふいた。そしていきなり右足を首の後ろに回すと通信パッドを顔
  103.  
  104.     の左へもってきて、画面を足の親指でを押したのだ!
  105.  
  106.     なんという体の柔らかさだ!
  107.  
  108.     これも毎日寝る前に暖めたミルクを飲み、柔軟体操をしているおかげだ!
  109.  
  110.     6月にはやりすぎて関節が外れてしまうこともあるが、人はそれを親しみを込
  111.  
  112.     めてこう呼ぶ!
  113.  
  114.     「柔軟体操の受難はJunoの恵み」・・・と!
  115.  
  116.     Juno・・・Juno・・・ジュノー・・・ジュノー・・・
  117.  
  118.     奇妙な音が通信パッドから出ている。
  119.  
  120.     なんの音だろう?
  121.  
  122.     てっきり画面に送信者の顔が映し出されるかと思いきや・・・パッドの横から
  123.  
  124.     紙が排出された!しかも常人には読むことのできない奇怪な模様をえがくパン
  125.  
  126.     チ穴を穿って!
  127.  
  128.     こ、これは・・・紙テープとかいうヤツだッ!!
  129.  
  130.      ダビラーはパッドを机の上に置くと、右手から左手へと器用に紙を送った。
  131.  
  132.     それを追う目は、1パンチ穴も逃すまいという威厳に満ちたヒツジそのもの。
  133.  
  134.     だが、だまされてはいけない。ヒツジの皮の下には、ヤギの血が隠されている
  135.  
  136.     のだ。
  137.  
  138.     読んでいる・・・読んでいるぞダビラーは。
  139.  
  140.     今の時代に、しかも最新技術の粋を結集して作られたであろう超魔空間パッド
  141.  
  142.     に、このようなアナログな出力方法を取らせ、なおかつそれを読むことができ
  143.  
  144.     るダビラーという男は・・・俗に言うパンチドランカーではないだろうか?な
  145.  
  146.     らば必殺技はジャンプ大パチンであり、絶必殺技は飛び込み大ピンチであるこ
  147.  
  148.     とは自明の理。ここは試験にでるから押さえておかなければならない。上から
  149.  
  150.     両手で参考書を押さえるだけじゃあ、ちょっとアッガイだぞ。
  151.  
  152.      やがてパッドからは紙がとぎれた。意外なほど短かった。しかしダビラーに
  153.  
  154.     はそれで十分だった野田。ついに動き出すときが来たからだ。
  155.  
  156.     机上のインターカムのスイッチを押す。
  157.  
  158.     「ミス・ハリケン、緊急出動だ。オゥローラ発信準備。装備は5番。MIR隊
  159.  
  160.     員20名と、君、そしてノウ・タリン博士も連れていく。私も行くのでそのつ
  161.  
  162.     もりで。予備の赤福は十二分に用意しろ」
  163.  
  164.     「わかりました。すぐに用意させます」
  165.  
  166.     「ああそれから・・・発進は・・・」
  167.  
  168.     「例の滝をつっきるヤツですね。承知しました」
  169.  
  170.     「すまんな。わたしの中での緊急出動とは、そういうものなのでね」
  171.  
  172.     「はい・・・では準備させます」
  173.  
  174.     「頼む」
  175.  
  176.     言い終わるとダビラーは、フーッ、と大きく息を吐いて天井を見上げた。その
  177.  
  178.     目は天井を透かして空を、宇宙を、そしてその先にあるものを見ようとする望
  179.  
  180.     望遠鏡(遠視)・・・
  181.  
  182.     今まで様々なことがあった。その多くは、筆舌尽くしがたいものばかりだ。だ
  183.  
  184.     がそれも、今回の一件が成功すれば・・・
  185.  
  186.     にっくきドゥコーノ=ダレイオウさえ始末できれば・・・
  187.  
  188.     感慨にむせぶダビラーを、無情にもインターカムが現実世界に引き戻した。
  189.  
  190.     「ダビット長官、準備が整いました。26番ゲートへおいでください」
  191.  
  192.     「わかった。すぐ行く」
  193.  
  194.     靴下と靴をはき終えたダビラーは超魔空間通信パッドを持ち、紙テープを丸め
  195.  
  196.     てHi皿に置いてから、悠然と部屋を出て行った。
  197.  
  198.  
  199.  
  200.     しばらくして------------
  201.  
  202.     彼の部屋のHi皿から煙が立ちのぼり、火がついた。そして一瞬勢いよく炎が
  203.  
  204.     燃え上がり・・・炎が消えると同時に、一匹の蝶が舞い上がった。
  205.  
  206.  
  207.     ”この世は火に始まり、火に終わる”
  208.  
  209.  
  210.     という伝承を表す蝶「不死蝶」だ。
  211.  
  212.     蝶は、風に乗った炎のように、だいだい色と黄色の明滅を繰り返し、その辺を
  213.  
  214.     飛び回った。
  215.  
  216.     吉報をもたらすこの蝶が、ダビラーの灰皿から出現したことは・・・彼の未来
  217.  
  218.     を暗示させるものであることを祈りたいが・・・スプリングクラーが作動した
  219.  
  220.     ときには姿を消していた。
  221.  
  222.     黒いバネが弾ける勢いのように、とめどなく噴水は続いた。
  223.  
  224.     あと2時間もすれば、虹が出るだろう。
  225.  
  226.     まて!ここまでで窓の記述があったか?
  227.  
  228.     まーどーしまちょう。ちょー。
  229.  
  230.     *    *    *    *    *    *    *    *    *
  231.  
  232.  
  233.  
  234.                                    つづく
  235.